福岡高等裁判所 昭和51年(ネ)771号 判決
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【判旨】
一昭和三三年三月三〇日、被控訴人が控訴人の父初義に対し、金一万五、〇〇〇円を交付したことは、弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いがない。
<証拠>を綜合すると、「昭和三三年三月頃、腹赤漁業協同組合では準組合員に対し正組合員になるよう勧誘しており、準組合員には正組合員の半分の海苔漁場しか割当てられなかつたので、かねて準組合員であつた初義もその機会に正組合員になることを希望したが、それには出資金及び加入金として合計三万円を組合に納入しなければならず、当時の三万円は畑一反の値段にも相当する大金で、初義にはひとりでその全額を調達することは困難であつた。そこで、初義の妻ミツヨと被控訴人の妻チドメとが姉妹の関係にある被控訴人に対し、初義から、「自分はどうしても金ができないから、一緒にもやつて(又はもようて―共同しての意味)しようではないか。」と話をもちかけたところ、被控訴人も、二、三年前から他の組合員の漁場を借りて海苔養殖を始めていたことでもあつたので、それは好都合と右初義の話に同意し、早速一万五、〇〇〇円を調達して初義に交付し、初義は自己の調達した一万五、〇〇〇円と併せてこれを組合に納入して正組合員になつたが、その際、被控訴人の出捐した一万五、〇〇〇円の性質や、もやいの内容については格別の話合いはなされなかつた。かくて、初義と被控訴人とは昭和三三年から、初義に割当てられた漁場六枚を三枚分ずつ(六枚のそれぞれを二分して)使用して海苔養殖をしていた(なお、初義に七枚割当られた年もあつたが、これにより被控訴人の使用枚数に変りはなかつた。)が、昭和三六年に至り、漁場の使用方法に関して両者間に紛争を生じ、かつ、初義の場合と同様、組合加入に際し他から組合に対する納入金(但し、三万円全額)を出してもらつた者が、その出捐者に漁場を三枚しか使用させていないと聞いたというようなことから、初義が被控訴人に対し漁場を一枚半しか使用させなくなつたので、被控訴人は右一枚半と併せて、他の組合員から漁場六枚を借受けて昭和四一年まで海苔養殖を続けていたところ、昭和四二年に右漁場代(漁場の借り賃小作料ともいう。昭和三三年頃は一枚につき二ないし三、〇〇〇円であつたのが、昭和三五年頃には五、〇〇〇円位となり昭和四〇年頃には一五万円位にもなつていた。)として一枚につき二〇万円を要求され、これでは採算がとれず、初義から使用を認められた一枚半だけでは生活ができないので、同年から海苔養殖を全廃した。被控訴人は右昭和三三年から昭和四一年の期間を通じ、初義に対しては、初義の組合に対する納入金(漁場一枚につき七〇〇円)のうち、被控訴人の使用枚数に応じた金額を支払うだけで、その他に漁場代等は全く支払うことなく、組合員としての労役(道路修理、盗難の警戒、漁場清掃、清掃代の負担等)を提供することもなかつた。」、以上の事実が認められ、<る。>。
二前叙認定の事実関係に基づき判断すると、昭和三三年三月三〇日頃、初義と被控訴人との間に、被控訴人において初義が腹赤漁場の正組合員になるため同組合に納入する三万円の半額一万五、〇〇〇円を出捐することにより、初義において当面漁協から割当を受ける海苔漁場(六枚)の半分を被控訴人に使用させる旨の合意が成立したことが認められるにとどまり、それ以上に進んで、被控訴人が漁場を使用できる期間、漁場割当に増減があつた場合の被控訴人の使用枚数、被控訴人の出捐した一万五、〇〇〇円の性質(漁場代の前払であるのか、将来返還されるべき貸金であるのか、それとも出資金か。)等については特段の合意があつたとは認められず、被控訴人の主張するが如き、初義が取得した組合員としての権利義務を初義と被控訴人とが二分の一ずつ享有する旨の契約か締結されたものとは認め難い。
してみれば、被控訴人主張の契約が締結されたことを前提に、右契約に基づき、初義の相続人たる控訴人に対し、控訴人が取得した本件補償金の二分の一につき、被控訴人に請求権があるとする被控訴人の主張は、その根拠を欠くことになる。そして、被控訴人は、他に、控訴人に対し本件補償金の配分を請求できる根拠を主張しないし、これを認めるだけの証拠も見当らないので、被控訴人の本件請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却すべきである。
三よつて、右と結論を異にする原判決は、民訴法三八六条により取り消しを免れないところ、記録によれば、原審は昭和五〇年七月一一日の第七回口頭弁論期日に裁判官の更迭があつたのに、その後弁論の更新手続をすることなく、昭和五一年一〇月一五日の第一一回口頭弁論期日に弁論を終結し、判決をなしたことが明らかであり、原判決の基本たる口頭弁論のうち第一回ないし第六回弁論にひとり関与した海保寛裁判官以外の裁判官により原判決がなされたのであつて、判決の手続に法律違背があるから、原判決はこの点においても同法三八七条による取り消しを免れないが、本件は弁論の全趣旨ことに記録上原審及び当審につきそれぞれ本件につき民訴法八一条一、二項の権限(上告とも)を含む訴訟代理権を授与されていることの明らかな双方各代理人が事実摘示一の合意をし、当審第七回口頭弁論期日において原審第七回口頭弁論期日前の証拠調の結果を陳述し、右陳述が原審でなされなかつたことにつき責問権を放棄した事跡に照らし、さらに原審裁判所に弁論を再開して判決するため差し戻さなくても事実審二審制について当事者が有する利益を害するとはいえず、事件につきなお弁論をなす必要が認められないので、原審に差し戻さないで自判することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(園部秀信 森永龍彦 土屋重雄)